Special Experience

研究者として大学や研究所で経験を積むことは有意義でした。それに加えて、海外生活、それもニュートンやダーウィンなどの歴史に名を刻む科学者を生んだイギリスでの生活、そして、民間企業、それも社会と密接にかかわる中小企業での体験は大変貴重な経験となりました。通常の研究者では経験できないこの特別な体験を社会貢献へとつなげていきます。

【人生観を固めたイギリス生活】

イギリスで6年間の研究生活を送りました。イギリスでは、上から一方的に命令されることはなく、上司と部下が対等で建設的な議論をするのが当たり前でした。ですので、若い研究者がイキイキしていて、自分らしく輝いていました。だからこそ、時代にあった斬新なアイデアがどんどん出て、それを上司がうまく活かし、どんどん研究成果が出たのだと思います。私自身も世界最高峰の科学論文雑誌に受理されたり、マリーキュリー新聞の取材を受けたり、MCRI retreat 2008ではPaper of the Year(マリーキュリー研究所2008年の論文大賞)を受賞することができました。


イギリス社会は、一言でいえば、フェア(fair, 公平)な印象を受けました。研究所に限らず、一般的に、男女間、大人と子ども、身体が不自由な人に対しても、赤ちゃんが泣いていても同じです。とりわけ、弱者に優しい社会でした。電車の中で子どもが泣いても、嫌な顔をされたことはなく、むしろあやしてくれました。ベビーカーで階段に近づくと、まるで決まりごとのように、誰かしらすーっと現れて、一緒に運んでくれました。


週末の街のパブでは、当たり前のように子どもが大人に話しかけます。もちろん、名前は呼び捨てです。私は"Kase"と呼ばれてました。大人の方も子どもから最近の流行りを聞いたり、一緒にダーツやスポーツ観戦をしたり、政治や経済についても話し合っていました。若者がしっかりした意見を持っているのは、こうしたシェ(Share))社会が根底にあるのではないかと思います。


ケンカのような激しい議論もどちらかの意見になるのではかさなく、双方の意見が組み込まれた和解案に至るのがほとんどでした。決まり文句はMake sense(理にかなう)です。


「自分で考えて主張し、相手のことを受け入れながら主張する」
「主体性」と「協調性」

まさに、今、求められているものではないでしょうか。

そういったコミュニケーションの重要性を身にしみるとともに、彼らのユーモアにも共感しました。
どんな困難な状況にあっても、Never mind(気にしない)と言い切り、さっと切り替えて前に進む姿勢です。

これが全て良しというつもりはありませんが、前進するたくましさは見習わなくてはいけないと思いました。


趣味のサッカーを通しても、たくさんの友達ができて、家族ぐるみでお付き合いさせていただきました。
情報交換をしたり、悩みを聞いてもらったり、お手伝いをしたり。私は日本語を教えたり和食でもてなしたりし、その代わりに文化や英語を教えてもらいました。 


Paper of the Year (MCRI retreat 2008 )を受賞

【民間企業でゼロから研究所を立ち上げる】

永住したいと思うほどイギリスは好きでしたが、不思議なご縁があり、大分県別府市に来ることになりました。

そして、全くのゼロから研究室を立ち上げることになりました。試験管一つない、もっと言えば、実験台も換気窓もコンセントすら十分でない状況でのスタートです。

困り果て、途方に暮れた私に、何人かの恩師や友人が手を差し伸べてくれました。新品価格で総額4000万円にも及ぶたくさんの装置や試薬を無償で譲り受けたのです。会社の援助もあって、仲間達と一緒にコツコツ少しずつ「大学の研究室に負けない」と言われる施設を作りあげました。


こうして、仲間達と一緒に作り上げた研究所で美容と健康に関する基礎研究と応用研究を展開しました。

さらにそれらに基づき、商品開発、管理、学会発表、論文執筆、特許取得などを通じて、会社の価値を高めることができたと思います。「温泉研究」の成果を各種の企業様、大手メーカの役員、各国の政府や海外の企業に対しても紹介し、研究成果が世界に広まっていきました。


そんな中、突如襲った難病で生死を争う父を前に、父を励ましたい一心で「医学博士」の学位取得を目指すことを決意。母方の祖父が医師であったため、母は幼少の私に医師を目指して欲しいと言っていたことも思い出し、医学博士の取得に向けて、努力を積み重ねました。数えきれないほどたくさんの仲間に助けられて、令和2年4月に順天堂大学医学部で学位を取得しました。これまでも大きな目標と目や前の目標を自分で立てて実行してきましたが、全て両親から学んだ「挑戦」、「学び続けること」を淡々と繰り返してきたと思います。その結果、"自ら課題を見つけて解決する"ことができるようになりました。

【コロナ禍に決意】

デジタル化で加速するグローバリゼーション時代に生きる子ども達の助けにならないかと思い、ボランティア活動を続けました。そして、次第に私でも人様に求められるようになりました。子どもたちは学力を伸ばすことはもとより、少しずつ社会に対する視線が変わり自らの具体的な目標を設定できるようになっていきました。


そして、コロナ禍の中、ついに決意を固めました。

これ学んだ全てを、これまで経験した全てを、共に学び共に育つ「共育」にぶつけることを。

学生時代からの夢である自分なりの寺子屋、一人でも二人でも、必ず子どもたちの将来に役に立つ場所を創ろうと。

退職してからではなく「今」。


「自分なりベスト」
どんな状況でも、目標に向かって自分なりの最大限の努力をすれば必ず道が開ける。
自分なりで良いんです。

自分なりに精一杯。

子どもたちが「自分自身を認め」、「自分を愛する」ことができるように。

そして、家族を愛し、友達を愛し、地域を、この国を、そして世界を愛するように育って欲しいです。

自然に「生きる力」がついていきます。


Inspired by Uchi Lab

「科学のススメ」